Fumiya Tanaka, Bracken, Swans - Linus 定期便 2016年7月
はじめに
2016年7月の Linus 定期便報告です。
今月もだいぶ遅れてしまった。
先月は3枚です、でした。
Swans は自分で買いました。
一昨年、当時出た作品を紹介してもらって、とても気に入ったので、今回は自分から購入したもの。
このサービス、以前紹介してくれて気に入ったアーティストの新譜が出ると、つい追加で買ってしまうので、買う対象が芋づる式に増えていきますね…。
サブスクリプションサービスやら、ダウンロード購入やらで音楽環境が激変している昨今、こうしてフィジカル (CD) を買い続ける自分の消費活動はどうなんだろうなーと思いつつ、この文化で育った性質をそう簡単に変えることもできず、だんだんと埋まっていく音楽棚を眺める、今日この頃です。
いったん、大量に手放したのですが、また埋まってきましたね…。
閑話休題。
Fumiya Tanaka - You Find The Key (2016)
日本のミニマル番長、田中フミヤによる、アルバムとしては8年振りの作品。
硬派なトライバル・ミニマル。
トライバルなビートや、ボイスサンプリングが印象に残る、ミニマルテクノです。
いっぽうで、全体的な音の作りが、トライバルからイメージする感じとはいささか異なっていて、かなりソリッドで硬派な音色という印象を受けます。
賑やかにごちゃごちゃとサウンドを並び立てず、選びぬかれた音だけでアルバム全体が構成されており、精緻かつ洗練されている。
しかも、ひとつひとつの音が際立つと同時に、ひとつの楽曲として絡み合っているような、一体感も感じさせます(特に、声を多く取り込んでいる効果がデカいかなと思います)。
なんというか、とにかく凄みがありました。
この作品を出している Perlon レーベル、同じデザインで、Ricardo Villalobos やら Luciano やら、ミニマル系のアーティストによる作品が多数出ているので、思わず揃えたくなっちゃいますね…。
LINUS RECORDS/Fumiya Tanaka : You Find The Key [CD]
Bracken - High Passes (2016)
Hood の Chris Adams さんによるソロプロジェクトの4枚目。
寂寥感ただようエレクトロニック・ミュージック。
Hood で見せていたような、切なげなボーカルがまずは印象的です。
いっぽうで、少しザラついたビートや、粗めできれいすぎないシンセ、多用されるサンプリングなど、音作りや楽曲の構成が、一筋縄ではいかない複雑さを醸しだしています。
荒さと緻密さがうまく同居していて、何回聴いても掴みどころがなく、同時に、新しい発見があります。
チルアウトでエレクトロニカでポストロックでブレイクビーツでヒップホップ、でも、Hood / Bracken でしかない、という音楽。
「こういう音楽だ」ってはっきり言えないですが、だからこその楽しさ、面白さ、素晴らしさって感じの音楽でした。
思わず唸ってしまう。
LINUS RECORDS/Bracken : High Passes [CD]
ちなみに前作 "Exist Resist" は、Linus 店主が2014年ベストアルバムの2位に挙げていて気になったものの、CD でリリースされていないので(カセットテープと LP、あとは DL 音源で流通)、Google Play Music で聴きました。
こちらはもっと荒削りで、かなりぶっ飛んでる感じです。
Bracken: Exist Resist - Google Play の音楽
Swans - The Glowing Man (2016)
Michael Gira さん率いるバンドのたぶん14枚目、2010年の復活以降では4枚目。
雰囲気も音楽性もごった煮で混沌としたロックミュージック。
ジャンクっぽくダラダラと弛緩した展開と、激しくウゴゴゴと鳴り響く重い展開とが、一体となって繰返し繰返し押し寄せてきて、なんだかわからなくなります。
ジャンル的にもぐちゃっとしていて、ドゥームでもノイズでもインダストリアルでもハードコアでもないし(たまにフォーキーだし)、ノーウェーブとも違うし…という感じですが、このごった煮感こそが、クセになる魅力を持っているのです。
加えて、全編をただようこの緊張感はなんだろう…。
ひとつ前の "To Be Kind" と、この作品しか聴いたことありませんが、過去作もこんな、ただならぬ雰囲気をまとっているのでしょうか。
それとも、年季の成せる業なんでしょうか…。
素晴らしいです。
LINUS RECORDS/Swans : The Glowing Man [2xCD]
おしまい。
マンガ図書館Z de TRPG - 読書記録 2016年7月
2016年7月の読書記録と、本に関する与太話です。
粋なゲーマー養成講座
TRPG デザイナー、朱鷺田祐介氏のブログで、『粋なゲーマー養成講座』が、マンガ図書館Zにて公開されたことを知る。
マンガ図書館Zって、存在は知ってたのですが、マンガだけじゃないんですね…(今更)。
懐かしさを覚えつつ、パラパラと読んでみる。
PC だとちょっと見づらいですね…(画質が…)、ともかく。
本書は、TRPG あるあるを通じて、TRPG ゲーマーに送る指南書、とでも言うべき内容。
当時も面白かったですが、今読むと、TRPG の本質的な楽しさについて、あらためて考えさせられます。
先日読んだ、小太刀右京著『なぜなに未来侵略 テーブルトークRPG編』につながる要素もあるのではないかと思いました。
なぜなに未来侵略 テーブルトークRPG編 (RoleRoll Books)
- 作者: 小太刀右京,鈴吹太郎,F.E.A.R.,すがのたすく
- 出版社/メーカー: 新紀元社
- 発売日: 2016/03/05
- メディア: 新書
- この商品を含むブログを見る
マンガ図書館Z de TRPG
これをきっかけに、マンガ図書館Zで公開されている、TRPG関連書籍を調べてみた。
システム別にまとめると、こんな感じ。
今から各システム自体を遊ぼうとは思いませんが(ただし、「りゅうたま」は今でも十二分に楽しめると思う)、シナリオやチャート類などは使えるかもなーと思いました。
あと、「粋な~」で思い出したのですが、ログアウトテーブルトークRPGシリーズ、ここで復活しませんかねぇ。
『鋼鉄の虹』とか、『アドバンスト・ウィザードリィ』とか、『白狼伝』とか、『ジェイド・キングダム』とか…(後ろ2つはそもそも出てないぞ!)。
あと、『おこんないでね』もぜひお願いします!
おしまい。
読書記録 2016年7月
2016年7月の読書メーター
読んだ本の数:14冊
読んだページ数:2874ページ
ナイス数:40ナイス
あなたの知らないところでソフトウェアは何をしているのか? ―映画やゲームのグラフィックス、データ検索、暗号化、セキュリティー、データ圧縮、ルート探索……華やかな技術の裏でソフトウェアがしていることの感想
暗号化やパスワード、CG やデータ検索技術など、当然のこととして受け入れている技術の裏でソフトウェアがやっていることを解説するエッセイ。前半の暗号化~パスワード~Webセキュリティーの流れはみっちり解説していて、分かりやすくはありませんが(これ以上どうやって分かりやすくするのか、という話はさておき…)、全体的なイメージはつかめるし、理解は深まります。後半のグラフィックスの話などは、ざっくりと解説していていささかあっさり気味(これ以上詳しくなったら着いていけるか、という話はさておき…)。
読了日:7月1日 著者:V.AntonSpraul
本の雑誌397号の感想
子どもの本特集。絵本よりも児童書寄りなのは、小説に重きを置く本の雑誌らしい特集ではないでしょうか。といいつつ、福音館書店探訪は興奮した。子どものこともあってすっかり絵本にハマっている私ですが、子どもの成長とともに、児童書にシフトしてハマっていくんだろうなと思います。あと、「鹿島出版会」の存在が興味深かった。八重洲ブックセンターはトーハンに株式譲渡されてしまいましたが…。他、青山南のコラムで、アメリカのコンマリブレイク事情が面白かったです。ときめきは「spark joy」なのか!
読了日:7月4日 著者:
決定版 FinTech
読了日:7月7日 著者:加藤洋輝,桜井駿
まっ直ぐに本を売る―ラディカルな出版「直取引」の方法の感想
取次を介さず、書店に注文冊数を即日出荷する、「直」方式の出版流通に関する本。私のような業界外の人間から見ると、至極まっとうなことをやっているように思えますが、これまでやってきたことを変えるというのは、それが長く定着していた場合、これほどに難しいことなのかと、いささか重い気分になる。いっぽうで、本書の主役であるトランスビューの工藤さんの、「神は細部に宿る」感はとても清々しい。ブレることのない全体のビジョンを持ちつつ、かつ、細かいところでカイゼンを繰り返していくという、バランス感覚が素晴らしいと思いました。
読了日:7月7日 著者:石橋毅史
街を変える小さな店 京都のはしっこ、個人店に学ぶこれからの商いのかたち。の感想
元恵文社一乗寺店の店長(現誠光社店長)の堀部氏による、書店・地域紹介本。恵文社という個性派書店のみならず、その周辺の個人店も含めて、ひとつの文化として街が形作られていく、という考え方が素晴らしいと思います。私の住む街にも、似たもの同士な個人商店が集まって、ちょっと不思議な空気が流れている地域があるのですが、そういうところに、ぽこっと個性的な書店があるといいなーと、妄想いたしました。とりあえず、恵文社とその周辺、行ってみたいです(誠光社も!)。
読了日:7月8日 著者:堀部篤史
グランクレスト戦記 (7) ふたつの道 (ファンタジア文庫)の感想
ミルザー戦。めまぐるしく変化していく戦局に大興奮ですよ。それにしても、レガリア、ハマーン、キルヒスといった、いわゆる泡沫君主が(失礼)、いろんな意味で大活躍するとは。戦の中にも、様々な価値観を提示してみせる面白さ。やはり水野先生、おそるべし。いろいろと一段落して、次巻以降はちょっと違った展開になるのかなーと、楽しみであります。
読了日:7月9日 著者:水野良
月刊コミックビーム 2016年 3月号[雑誌]
読了日:7月12日 著者:
ぼくの道具の感想
冒険写真家、石川直樹の旅道具エッセイ。私は登山はしませんが、それでもいい感じの道具がたくさん出てきて、うれしいやら困るやら。ソレルのスノーブーツ、ダナーライトの靴、グレゴリーのバックパック…。高城剛『LIFE PACKING』に並ぶ、道具本の傑作。また、極地のトイレ事情に関する話も面白かったです。ナルジンボトルに…とか。「尻を拭くものがない場所と、人間が生きていけない場所は、完全に重なると思うのだ。人間は尻を拭かないと生きていけない動物で、それに使用するものがない場所には暮らしが根付かない。」名言!
読了日:7月14日 著者:石川直樹
アマデウスリプレイ 神候補たちと冥王の剣 (2) (ドラゴンブック)の感想
齋藤さんの半笑いリプレイ第2弾。黒いリプレイですね、いろんな意味で。前半はネタがネタを呼ぶネタリプレイで面白かった。後半はまさかのラストにびっくり。でもアマデウスのバランスならあり得ますよね…。水を得た魚のようにイキイキする齋藤さんにニヤニヤしつつ、今後の展開が気になります。ハイライトはやっぱり、トロフィーかな。あと、欄外の【バァ】【カァ】推しがちょっとしつこいですよ、バカー!
読了日:7月19日 著者:齋藤高吉/冒険企画局
仕事は楽しいかね? 2の感想
上司・部下、管理職やチームの話。1巻は自分の内側に向けるための自己啓発、2巻は自分の外側に向けるための自己啓発という感じで、今巻の方が事例紹介としては具体的で面白かったです。やっぱり優秀な部下って、待っててもやって来ないですよね…、あと自分が魅力的な上司にならないと来てくれないですよね…、ということに、改めて気付かされるのでした。仕事の同志かー。具体的な事例が日本の雇用形態には当てはまりにくいところもありますが、それでも参考になるところはありまする。
読了日:7月22日 著者:デイル・ドーテン
おざなりダンジョン 1巻の感想
30年近く前の作品。ダンジョン/ファンタジーマンガの草分け的存在らしい。ハチャメチャで強すぎる女戦士、慎重でスゴ腕な盗賊、何もしないけど妙なところで活躍する魔法使いの3人組が繰り広げる珍道中って感じ。ドタバタしているうちにあっという間に読み終わってしまった。続きも読んでみる。
読了日:7月23日 著者:こやま基夫
日経SYSTEMS2016年07月号
読了日:7月26日 著者:日経BP社
世界を変えるデザイン――ものづくりには夢があるの感想
世界の人口の90%(貧困)に届ける、生活の基本的なニーズに即した、問題解決としてのデザインについての本。シンプルに考え抜かれており、かつ、ビジネスとして成立する製品をデザインする、という考え方に基づいた事例がいくつも紹介されていて、これがまさにソーシャル・ビジネスではないか、と思った。2007年刊なので事例自体は古いものもありますが(知らなかったことが恥ずかしい…)、基本的な考え方は今も変わっていないのであります。ということで、次巻へ続く。
読了日:7月27日 著者:シンシアスミス
トロイの木馬―マンガ・ギリシア神話〈7〉 (中公文庫)の感想
トロイア戦争編。増えすぎた人口を減らすためにゼウスが仕組んだ戦争…。それにしても、(表面的には)ひとりの女性をめぐって10年も戦争が続く構図って、相変わらず女性を貶めている視点を感じますね…。トロイの木馬のエピソードは普通に面白かったです。わかるだろこれ。他、戦争後のアガメムノーンの子どもたちのエピソードにはめずらしくほっこりした。たまにはいい話もあるんですね…。
読了日:7月28日 著者:里中満智子
読書メーター
Tim Hecker, Stimming - Linus 定期便 2016年6月
はじめに
2016年6月の Linus 定期便報告です。
もう7月下旬じゃないか。
先月は2枚です、でした。
その前に、5月に感想を書いた、Andy Stott - Too Many Voices について。
こちらの作品ですが、過去作のファンの人からはあまり評判が良くないって、Linus 店主さんからのフィードバックがありました。
私は好きでしたが、作風がちょっと変わったので、わからなくもない。
Linus 定期便は、こういうふうに感想をフィードバックしながら、セレクトを微調整しつつやっています。
私は、直球なアンビエントや、メルヘン風エレクトロニカは避けてもらっている。
そんな感じで、ひとりひとりに対して調整しつつやっているので、大変かと思います…。
キュレーションも楽じゃない。
Tim Hecker - Love Streams (2016)
カナダの Tim Hecker さんによる8枚目。
荘厳かつ実験的なノイズアンビエント。
カットアップされたノイズや種々のエレクトロニックサウンドで構成された楽曲群。
これらに、生音や聖歌隊の歌声を大々的に取り入れているのが印象的です。
特に歌声の効果は絶大で、やたらと攻撃的で実験的な曲なのに、なぜか荘厳さをも感じさせるという、不思議な感覚。
この、ふわふわとしてとらえどころのない感覚こそが、狙い所って感じがします。
通して何回も聞き流すこともできるし、ひとつひとつ立ち止まってじっくり聴くこともできる。
非常に興味深い作品でした。
とてもよいです。
LINUS RECORDS/Tim Hecker : Love Streams [CD]
Stimming - Alpe Lusia (2016)
ドイツの Martin Stimming さんによる4枚目。
メロディックなミニマルハウス。
非常に洗練された軽やかなビートの上を、美しいフレーズが流れます。
はい、私好みな感じです、いつもありがとうございます。
かなりメロディックな曲が多くて、なんか映画やアニメの音楽のようでもあります。
いっぽうで、アルバム通して聴くと、けっこう面白い曲もちらほらあって、通しで聴いても飽きさせません。
フロアとホームの間を、うまいこと行ったり来たりしている作品だと思いました。
とてもよいです。
LINUS RECORDS/Stimming : Alpe Lusia [CD]
おしまい。